氷室神社文化興隆財団

奈良民俗紀行―西大和編―

奈良民俗紀行―西大和編―

鹿谷 勲:著 京阪奈情報教育出版株式会社

長年民俗文化財の調査保存に携わってきた著者にとって、「西大和」は新興住宅地のイメージが先行する未知の領域でした。しかし、歩き始めるとさまざまな伝承や生活文化が今も息づいていることがわかってきたといいます。

本書では、この地域の民俗文化を「あらたまる」「なう」「つどう・いとなむ」など10項目に分けて解説します。新旧住民の混在するこの土地柄で民俗文化がどのような役目を果たしているのかという問いも、その土地の今後にあり方を模索する際に必要なことでしょう。

神戸ルミナリエなどの「光系イベント」が全国で数多く生まれ、奈良県でも「なら燈花会」が夏の風物詩として定着しています。東大寺や春日大社などの宗教空間に挟まれて、この燈花会も次第に個人の祈りや願いの場となりつつあります。著者は、新しい試みの中にも、その土地のもつ遺産や伝統が投影してくるところに、大和のもつ根強い息吹を感じるといいます。

ニュータウンとして開発が進んだ西大和に、今も生きている民俗文化の意味や役割、そして歴史をあらためて考えさせてくれる好著です。