氷室神社文化興隆財団

祖霊と精霊の祭場 地域における民俗宗教の諸相

祖霊と精霊の祭場 地域における民俗宗教の諸相

高田照世:著 岩田書院

本書の調査地は奈良県北部、京都府南山城、滋賀県湖東湖南の諸地域ですが、なかでも奈良県生駒市高山では詳しい石塔調査が行われています。これによれば、中世は火葬単墓制でしたが、近世では埋葬する墓地と別の場所に石塔を建てる両墓制という形態をとっていました。しかも火葬と土葬の両墓制が併存する時期を経て、明治以降に土葬単墓制となり、現在は火葬単墓制をとっています。

高山地域で墓地に建塔する習慣が生まれたのは、中世後期に有力層の各家に祖霊信仰がおこってからで、近世中期からは、庶民の間でも家ごとの祖霊崇拝が盛んになり建塔が普及するようになります。これが、外庭での神迎えの砂まきや盆に精霊を祀る水向け(ホウカイサン)などを発生させました。のちに、屋内に仏壇や床の間が登場し、祖霊祭祀の場所が屋内の常設の場となります。この変遷を示しているのが、軒下や縁で祀られている無縁仏のために設ける餓鬼棚であるといいます。

民俗信仰は、地域社会の人々が現世、来世の幸福を願ってつくりあげてきたものですが、本書は、神や仏、それに祖霊との絆をどのように考えたらよいのかを知る手がかりを与えてくれる好著です。