氷室神社文化興隆財団

奈良伝説探訪

奈良伝説探訪

茂木雅博:著 慶友社

一つの伝説は、文学の歴史そのものであり、日本の信仰の歴史そのものでした。編者は、奈良は伝承文化の中でも特に歴史伝承や信仰伝承が豊かなところであるといいます。伝説の主人公は歴史上の英雄や高僧などが多く、その人物の偉業を土地に結び付けて顕彰し、真実として語り継がれています。

本書はこれら奈良の伝承文化の背景を探り、伝説が年中行事や信仰、芸能などの生活文化とどのように結びついてきたのかその意味を深く掘り下げ、わかりやすく解説しています。構成は、Ⅰ奈良町界隈を歩く、Ⅱ奈良の東を歩く、Ⅲ奈良の西を歩く、Ⅳ奈良の郊外を歩く、Ⅴ奈良から歩く伝説と信仰の旅、の五章からなります。伝説の内容も古代に遡るものから奈良教育大学の七不思議のように現代奈良の都市伝説まで採り上げています。

なんの変哲もない伝説も、中国・朝鮮・ペルシャにまで広げて眺めたり、古今の文献を渉猟してみると大変興味深いです。卑近な伝説の中に奈良文化の奥深さと日本文化の再発見があることを教えてくれる一冊です。