堀池春峰：著　東大寺史研究所編　昭和堂

東大寺・南都仏教を専門とする歴史学者が本書の著者です。主要な論文は、『南都仏教史の研究』で見ることができますが、これとは別に、折に触れて一般向けに書かれた文章をまとめたものです。

各トピックは、東大寺の歴史からはじまり、伽藍の沿革や年中行事の解説や境内の神社の由来にも及びます。東大寺や正倉院の秘話には、大仏の後ろに370年余りも小山があった話や聖武天皇・光明皇后の礼服・礼冠が、たびたび天皇の御即位のために利用され、返納のときに壊れてしまったことなど、興味深い話題が多いです。また、修二会の会計を司る小綱職の家に生まれ、東大寺とともに歩んでこられた著者が、新聞記者の質問に答えて話された戦中・戦後の話も、今となっては貴重な証言となっています。

巻頭には東大寺境内図、巻末には東大寺略年表が付けられ、奥深い東大寺史の入門書として最適です。