氷室神社文化興隆財団

中世の興福寺と大和

中世の興福寺と大和

安田次郎:著 山川出版社

本書の第一章では、おん祭りの草創期から鎌倉期の日使、流鏑馬、それに春日権現験記絵に焦点をあてて論述しています。第二章は興福寺の大和国支配について、菩提山僧正信円、勧進、院家領荘園からアプローチし、第三章は鎌倉後期から南北朝期の門跡相互の、あるいは門跡内の抗争を新出の史料で追跡しています。

著者は、しばしば大和は特殊な国であるといわれることに対して、「国司がはやくに有名無実となり、守護が置かれず、興福寺が大きな力を持ったという点では確かに他の国々とは違う」といいます。しかし、「この国の中世史こそ日本中世史の縮図であり、むしろ大和の研究を通じて日本中世史理解のための基本的な鍵の一つを見い出すことができる」として、大和の中世史研究の意義を強調されています。

新しい切り口と新史料を駆使して、今まで曖昧であった部分に光を当てた本書は、中世の大和の歴史像を鮮やかに示した内容になっています。