氷室神社文化興隆財団

宇宙菴 吉村長慶

宇宙菴 吉村長慶

安達正興 著 奈良新聞社

吉村長慶は、昭和17年に数え年八十歳で亡くなるまで、奈良県内はもちろん京都、大阪、高野山にまで二・三百の石造物を遺しています。佐保川に架かる北袋町の長慶橋や舟橋町北詰めの下長慶橋も、現在は鉄筋コンクリート製だが、元はどちらも長慶が寄進した石橋です。

昭和54年に「長慶はんと石の芸術」と題する写真展が開催されたとき、企画を後援した奈良新聞が、長慶を知る人達が執筆する連載記事を掲載しました。著者はこの記事を糸口に長慶の縁故者を訪ね、またその石造物を探し、長慶の人となりを探っています。

長慶は、国家政策を論じ、平和論を著した思想家としての顔をはじめ、質商を営み北浜で成功した相場師としての顔、長く奈良市会議員を務めた政治家としての顔、宇宙教を唱導し長慶寺を建立開基した宗教家としての顔など、地方の一奇人に納まらない視野の広い実践的知識人であったといいます。明治時代に世界平和の国際組織の必要性を論じ、同士を海外に募ったり、還暦のころに自らの生前葬をしたような、自由な精神と奔放な言行はとても現代の日本人がまねできる生き方ではありません。

本書は、入手困難な資料を博捜し、長慶の人となりを考察した長慶伝記の決定版です。