南都寺院文書の世界
東大寺の宝珠院文書は未公開であったため、興福寺一乗院家来の二条家文書は文書目録がなかったので、利用されることがありませんでした。本書は、これらの文書の調査・研究を行ない、その成果をまとめたものです。
第Ⅰ部の「宝珠院文書の世界」では、攝津国長洲の支配をめぐる東大寺と京都鴨社の相論記録などから、朝廷の裁判の様子や奈良と京都の交通事情、それに長洲荘の悪党の実態を述べます。また、東大寺の荘園経営や寺院財政に関わっていた乾家の活動を明らかにします。
第Ⅱ部の「興福寺とその周辺」では、大和一国の課役である土打役は、興福寺造営の瓦を造る人夫役で臨時的なものだとします。興福寺では荘園の収入が減少すると、春日若宮祭礼や興福寺法会に関わる芸能者や宗教者に補任状を発行して補任料で補いました。さらに、江戸時代の奈良の医師が、朝廷に僧位叙位を申請するにあたり、これを請負う商人の介在を指摘しています。
いずれの研究からも、南都寺院に伝来した文書群の豊かさを再認識することができます。