近代天皇制と古都
本書は、天皇中心の立憲国家の文化面でのあらわれとしての「古都」の創出をテーマとします。奈良・京都の古都は、日本の「歴史」「伝統」「文化」を具現するものとして、近現代を通じて作り出されます。その際、古都奈良については、「神武創業」の「神話的古代」の場として、もうひとつには「日本文化」創生の起点として創りだされました。
近世までは、興福寺で言えば人々の流れは西国三十三カ所の札所南円堂に向かっており、今日のように阿修羅像や十大弟子像といった天平彫刻に興福寺のイメージを重ねることはありません。同じことは法隆寺にもいえて、近世の信仰の対象は太刀などが奉納され薬師如来を安置する西円堂(さいえんどう)でした。これらの寺院は、近代に創られた古代の美術的価値に同化します。
現代の大和に古代文化に特化されたイメージがあるのは古都創出の歴史に由来します。人々が見ている奈良は、人々の心に共有されたイメージとしての「古都奈良」であるといいます。