氷室神社文化興隆財団

寺社と芸能の中世

寺社と芸能の中世

安田次郎著 山川出版社

著者は、興福寺と春日社で行われた田楽・延年・猿楽の三つを取り上げ、寺社と芸能にまつわるエピソードを紹介しています。

田楽は北条高時が熱中していたことで有名ですが、興福寺僧も、おん祭りで田楽法師に豪華絢爛な装束を下げ渡す役割に当ると、費用を捻出するために縁者や知人に援助を要請して歩いたといいます。法会のあとの慰労会や将軍などの賓客の接待や歓迎行事に僧や稚児が中心となって行った芸能を延年といいますが、将軍義教は、夫人の南都下向に際して、興福寺に延年を催すように催促しました。興福寺は女性を延年で歓迎した例はないといって拒否したところ、それならば京都で延年を行えと命じてきたので仕方なく京都で延年が行われたといいます。

また、興福寺の薪能は、国家安全・五穀豊穣などを祈る修二会で行われていましたが、中世では一日に二五番も組まれた例もありました。当時の猿楽はテンポが早かったので、一度に多くの曲目を楽しめたらしいです。

本書は、中世の芸能を通して、寺社の世界や中世びとに近づくことができる好著です。