氷室神社文化興隆財団

奈良甲冑師の研究

奈良甲冑師の研究

宮崎隆旨著 吉川弘文館

奈良は、わが国最大の甲冑生産地で、奈良甲冑師の在銘品は、畿内、山陽道はもとより、土佐、伊予から美濃、駿河、相模、信濃など広範な地域に及んでいます。大内氏や武田氏など、東西の武門の名門が地元の神社に奉納する甲冑を奈良で調達していたことは、甲冑の生産地奈良の実力を示しています。江戸時代には、幕府の御用具足師として岩井与左衛門を筆頭に奈良出身の甲冑師が御用具足師を独占し、大名の「扶持人」となる有力な具足屋もいました。江戸時代初期の奈良では、加賀藩が急遽発注した二八○○領の足軽具足を調達する生産能力を備えていたことは注目されます。著者の試算では、この頃には約四四○人の具足師がいたのではないかといいます。

「奈良具足」は近世の奈良で生産された具足のことだが、伝統技術に基づく上製品をつくりだす一方で、分業による大量生産を行っており、江戸・京都・大坂をおさえ、近世奈良の甲冑生産が全国第一位であったといいます。

本書は、甲冑の研究として貴重であるだけでなく、中・近世の門前町のイメージを一新するとともに、奈良が近世前期までは産業都市であったことを具体的に示した研究成果でもあります。一読をお勧めします。