大和古物漫遊
本書は、奈良にゆかりのある漆器、焼物、書画などの「古物」の魅力を語ります。
今まで、美術館や博物館の図録などで、物の写真と解説が付けられているのを見てきましたが、なにか物足りなさを感じていました。この物足りなさは、物の技術的、美術的な面だけを説明しているからでしょう。本書は「古物」を通して名工を語り、人物を語って「古物」の魅力を引き出し、「古物」にまつわる年中行事、背景になる歴史や民俗を語っています。「古物」の歴史や由来から、大和の歴史が浮かび上がってきます。
特に、瑠璃之灯籠、春日衝立、三社託宣、おんまつり、春日さんの古枡、春日矢立、春日祭などの春日関係のテーマは、春日大社の権宮司である著者ならではの筆致です。著者は、「すべてのものには霊魂が宿って」おり、「どんな物にも、それを使いそれを眺め、それを座右に置いた人々の心と、物に宿った魂」があることを強調されます。
大和古物を通して、郷土の歴史や文化、先人の足跡を語る著者のふるさとに注ぐ深い愛情が感じられます。