古代仏教をよみなおす
古代仏教は国家仏教で、仏教が民衆に広まるのは鎌倉時代のこととされていました。著者は、こうした古代仏教史の常識的な歴史を疑い、新しい歴史像をめざしています。
仏教伝来から一世紀を過ぎる頃には、地方豪族の仏教が盛んとなり、各地に数多くの地方寺院が建立されました。七~九世紀の古写経の中には、民衆への仏教の流通をうかがわせるものがあり、僧尼たちは自由な宗教活動を行っていたといいます。
『日本霊異記』には、そうした民衆への仏教流布の様子がわかる説話があります。たとえば、流された二人は、漂流中に「南無 釈迦牟尼仏」と称えています。ここから、奈良時代に、仏菩薩の名号(みょうごう)を称えるという信心の姿が、民衆階層にまで広まっていたことがわかります。また、四十九日の仏教の法要が、民衆階層にも広がっており、奈良時代になると、仏事が民衆にも受容されていたといいます。一方、神仏習合は、中国で説かれていた神仏習合思想を受容、模倣したもので、日本だけのものではないともいいます。
歴史の教科書で学んだ古代の仏教のイメージは本書によって大きく修正されています。