中世・近世の村と地域社会
柳沢文庫の学芸員西村幸信氏が、生前に発表された著作物を集成したもので、中世後期から近世にかけての村落の研究と、大和の地域史研究の二部にわけて編集されています。
第一部の「中近世移行期の村落と中間層」は、多くの事例を大和に求め、それが学会での発言のバックボーンになっています。広陵町の町史編纂にたずさわり、大和の近世史料に接する機会が多くなると研究分野を近世にスライドさせてゆきます。第二部の「地域研究の試み―大和の近世村落から―」はその成果です。
さらに、柳沢文庫に勤めることで、文化史や藩政史の分野にも研究対象を広げていきました。文人大名として知られる堯山こと柳沢保光に光をあてた論考では、作風の変化を読み取り、領民の動向にも目を向けながら藩主や藩を見つめようとする著者ならではの姿勢がみられます。また、版籍奉還から廃藩置県前後の郡山藩政史料を紹介して、未開拓の分野に目を向けています。
郡山を拠点に、日本史全体の動きにも目配りしながら、地域史研究を推し進めていた西村氏の業績が引き継がれることを祈念したいと思います。