荘園絵図が語る古代・中世
私たちが日々目にする景観には、古代にまで遡るものが残存していますが、著者の専門の歴史地理学は、その点を利用して過去の景観を復原しようとします。当時の人々の地理的知識・場所のとらえ方は絵図に描かれているといいます。
本書では、古代・中世にまたがる荘園絵図がよく残っている西大寺の絵図群を取り上げています。とりわけ、一四世紀のものは、西大寺と秋篠寺が、寺領の所属を争ったり、土地を交換したりするために、現場の状況や問題箇所をよりうまく示そうとして作成しています。また、「京北班田図」は、古代の田図を参照して作成されており、鎌倉時代にはすでに残っていなかった古代地名が出てくるなど、古代の史料としても注目されています。
本書は、歴史地理学のよき入門書であるだけでなく、私たちになじみ深い西大寺を中心とした荘園絵図に盛り込まれた歴史を解読するとともに、現在まで残っている遺構の現場に赴いて、私たちを歴史散歩にいざなってくれる好著といえましょう。