美の脇役
本書がはじめて発刊されたのは、昭和36年(1961)である。この書のもととなる原稿は、産経新聞で同年11月から毎週一回ずつ連載されました。百回におよぶ連載は、京都・奈良からはじめられました。地域別に見ると京都45、奈良36、滋賀3、大坂11、和歌山3、兵庫2となっています。奈良にかぎっても、東大寺大仏殿中門の女神像や氷室神社の灯篭などは知らない人のほうが多いでしょう。二月堂の石段の文様や法隆寺の築地塀、郡山城の逆さ地蔵など何の変哲もないところにカメラを向けています。一方、唐招提寺の破損仏・木彫如来形立像、秋篠寺の伎芸天、法華堂(三月堂)不空羂索観音の宝冠などは主役に代われるぐらいの脇役です。ふだん目を留めたことのないアングルで撮られたモノクロの写真は新鮮です。
案内役の執筆者の解説も犬養孝、入江泰吉、末永雅雄、直木孝次郎の諸氏をはじめその数六十人に及びます。井上博道氏の奈良をテーマにした作品集の原点でもあり、四十四年の歳月を感じさせない美の発見の書です。