奈良の鹿「鹿の国」の初めての本
第一章の「奈良の鹿愛護会」の話と第二章の「鹿せんべい」の話は、編集部が取材したもの。第三章から第七章までは、春日大社権宮司、生物学者、歴史家、社会学者、児童文学作家の寄稿で構成されています。神鹿の誕生から角伐りが行われるようになる話、神鹿を殺して石子詰の刑に処せられた「三作石子詰(さんさくいしこづめ)」の話の由来や、奈良公園の鹿糞で生活しているコガネムシの話、明治から終戦直後までの鹿との共存の歴史など、興味深い話が盛りだくさんです。
奈良の鹿は、春日大社の「神鹿」であると同時に、「奈良のシカ」の名称で指定された国の天然記念物です。また観光の目玉の一つでもあり、東大寺の大仏とともに奈良のシンボルの双璧となっています。しかし、奈良の鹿の頭数が一〇五二頭で、圧倒的に雌鹿が多いこと、怪我や病気や交通事故で年間三八○頭くらい死んでいること、平均寿命は大体雄で一五年、雌で二○年くらいということなど、案外知らないことも多いです。
奈良は神仏と自然と人間そして鹿が共生している土地ともいえます。本書はその共生の歴史を興味深く教えてくれます。