氷室神社文化興隆財団

世界遺産 春日山原始林―照葉樹林とシカをめぐる生態と文化

世界遺産 春日山原始林―照葉樹林とシカをめぐる生態と文化

前迫ゆり編 ナカニシヤ出版 2013年3月

本書は、春日山原始林を未来につなぐ方策を考え、「春日山原始林」と「奈良のシカ」と「人」の共生をめざしたものです。

かつての春日山界隈は古代の神聖性をベースにして、中世ないし近世の奈良の春日社や興福寺の神仏習合文化を育み、今日に至る奈良文化の源流といえます。

この春日山照葉樹林は面積約300ha弱と小さく、周辺を人間の生活領域に囲まれた、いわゆる「孤立林」であり、きわめて脆弱な森林です。春日山の現状は若い苗がまったく見当たらず、アセビやナンキンハゼなどシカが食べない樹木の苗が目立っています。

本書では、解決策として、シカの棲息数をなんとかコントロールすることを提唱しています。棲息数のコントロールは神鹿としての「シカ」と原始林の存続を天秤にかけることを意味していますが、将来にわたって春日山原始林を保全するため、議論をオープンにして、叡智を集める時期に来ているといいます。

観光資源と生態系保護という世界遺産としての奈良の抱える問題を明らかにするとともに、人と自然の共生のあり方を考えさせる一冊です。