奈良大和の社会史点描
本書の序章では、大和の古代から近世への社会の移り変わりを概観します。日本人の心の基軸ともなる神奈備(かんなび)・磐座(いわくら)を神霊降臨あるいは神霊の座とする信仰は、古代国家形成の中で形成されたが、近世になると各村での御山の信仰へと広がり、今日まで継承されたといいます。また、中世の大和はさながら仏教王国となって神仏習合が行きわたっていたことや、近世に入ると大和川に一大物資流通路が開かれたこと、奈良の町会所の機能や、お蔭参りに参画した社会的意義などについても触れています。
二章以降は、「農耕儀礼と郷村制」「衆徒国民家の一末裔」「町の共同体と奈良町会所」「大和川をめぐる地域文化」「お蔭参りとお蔭踊」の五つのテーマを取り上げ、具体的な生活の姿を詳述します。たとえば、奈良の町会所は京都・大阪の町会所と違い、信仰的性格があることや、大和川の水運で綿作が栄えたこと、お蔭参り・お蔭踊では、明和のお蔭参りに158万人余りの群参者を接待し、慶応のお蔭踊で一糸乱れぬ集団を組んで敬虔に氏神に奉納されていたことを称揚します。
生活共同体の営みを軸に、奈良・大和ならではの問題を中心に興味深く述べた好著です。