奈良県の歴史(新版県史シリーズ29)
本書は、永島福太郎氏が執筆された『奈良県の歴史』の旧版以後に蓄積された研究成果を盛り込むことに主眼が置かれ、各分野の第一線で活躍している研究者が共同で執筆しています。
古代では、大和王権の誕生を窺わせる遺跡を多角的に紹介します。七世紀を中心とする飛鳥時代も、亀形石造物や富本銭など記憶に新しい出土例を紹介し、飛鳥の都としてのイメージを浮き彫りにしています。
中世では、春日若宮おん祭りや、西大寺流律宗の社会的活動も紹介。悪党が春日社の神鏡を盗んだ原因を、一乗院と大乘院の抗争に求める説も興味深いです。一方、柳生の徳政碑文を発見した郷土史家の杉田一を紹介し、『多聞院日記』の著者の経歴を述べるなど、あまり知られていない事実の紹介に新鮮味が感じられます。
近世は、特に八章の「ゆらぐ幕藩体制」は、年貢増徴や商品流通の統制、ペリー来航など、時代の変動期の中で、地域の人々がどのように対応したのかを、豊富な事例で紹介します。近代は、明治から昭和のはじめまでを重点的に叙述します。コラムの奈良博覧会と「正倉院御物」や平城宮跡の保存と棚田嘉十郎は、現代の奈良県文化財の保存と開発につながる問題として興味深いです。
最新の研究成果を折り込んだ地域の通史として、広く江湖に推薦する次第です。