氷室神社文化興隆財団

飛鳥の木簡―古代史の新たな解明

飛鳥の木簡―古代史の新たな解明

市 大樹:著 中央公論新社

木簡にはあまり込み入った内容は書かれません。軽微な内容が多く、用が済めばただちに不要となります。しかし、一方で、何度も削って再利用できるというメリットがあり、頑丈であったので人や物の移動に関わって用いられることが多かったのです。

発見された木簡のうち、七世紀前半の木簡は、100点にも満たないですが、孝徳・斉明・天智の時代をみると、数百点にまでふくれあがります。そして、天武・持統天皇の時代には、一万点以上にも達し、藤原京の時期の木簡は実に三万点以上あります。

本書では、木簡を読み解きながら、木簡使用の始まり、大化の改新の評価、天武・飛鳥浄御原の姿、飛鳥池工房の性格、飛鳥寺の多彩な活動、藤原京誕生の意義、大宝令施行の影響などの問題を取り上げています。なかには、官人の八卦占いの結果を記した木簡もあります。これまで八卦占いは平安時代以後の例しか知られていませんでしたが、藤原京の時代にまで遡ることが分かりました。

また、漢詩や和歌を記したと思われる木簡も出土しています。和歌木簡は、なぜ和歌を木簡に記したのか。なぜ墨書でなく刻書なのか。なぜ和歌の最初だけ刻んだのか。「飛鳥の木簡」は日本古代史の研究に、新たな史実の発見を与え続けており、謎や興味が尽きません。