氷室神社文化興隆財団

父祖たちの風景

父祖たちの風景

上杉朋史:著 響文社 2013年5月

著者の祖父が北海道に移住したのは、明治22(1889)年8月に、十津川村を襲った豪雨の後です。吉野地方で、同月19日の総雨量は1000ミリメートルを越えたと推定されています。豪雨による山腹崩壊、河川氾濫と新湖の形成、さらには、新湖の決壊などの自然災害が二重三重に住民に襲いかかりました。十津川郷では、その生活の基盤そのものが流失、崩壊してしまいました。これが北海道への集団移住を決断せざるを得なかった最大の理由でした。

移住したのは、600戸、2489人である。移民協議会で新しい移住地の村名を新十津川村とすることに決定したのは、母村・十津川村との連帯意識が強く働いていた証です。入植地の家屋は12坪の掘っ立て小屋で、2年目から本格的な作付けがはじまり、自家用作物が栽培された。明治31(1898)年頃からは、稲作に転換し豊かな水田地帯になっていきます。

本書は、移民団に加わった祖先たちの実像を求めて、子孫の一人が歴史の森に分け入った歴史紀行であるとともに十津川移民団の一大叙事詩です。