氷室神社文化興隆財団

寺社史料と近世社会

寺社史料と近世社会

幡鎌一弘著 法蔵館

本書は、戦国期から近世の大和国あるいは南都の興福寺・春日社を中心とした歴史を述べたものです。

第一部では、興福寺の変質を、寺僧の集会記録の「興福寺学侶引付」や寺僧の出身の「家」との関係から探っています。また、春日社の春日若宮祭礼の移り変わりや、寺院と墓の関係から葬送の担い手を検討し、地域社会との関係を明らかにしています。第二部では、寺社史料そのものの性格やその伝来について検討しています。

終章では、奈良の町人が、地誌編纂を行ったことをとりあげ、その質は藩の編纂物にも見劣りしないものであったと評価します。そのきっかけは、奈良奉行の仲介で、水戸藩や加賀藩が行った、興福寺・春日社などの史料の調査による史料の開示でした。これによって、村井古道がまとめた代表的な奈良の地誌『奈良坊目拙解』は、奈良町をめぐる長い研究史の起点になりました。

歴史家の永島福太郎氏が、「社寺の都南都」と表現するように、奈良と春日社・興福寺との関係は深いです。著者は、その史料のジャングルに分け入って権門寺社の推移を語りつつ、奈良の最新の近世史を語っています。