氷室神社文化興隆財団

全集日本の歴史 第七巻 走る悪党、蜂起する土民

全集日本の歴史 第七巻 走る悪党、蜂起する土民

安田次郎:著 小学館

巻頭には、鎌倉末期の悪党による春日社のご神体の神鏡を盗んだ事件を取り上げます。これは、興福寺の一乗院と大乗院の門跡の対立抗争に利用された悪党が、鎌倉幕府によって制圧されて、切り捨てられた悪党が反撃したものといいます。上層社会の分裂抗争の結果、社会全体が大きく揺れ動いた争乱の時代のきざしとなる事件でした。

南北朝時代には、興福寺の一乗院・大乗院両門跡は、30年におよぶ諸院家の従属化をめぐる抗争をし、大和武士を味方につけるために、新たな給分をそれぞれの荘園で宛行ったが、これが武士の力を伸長させる結果となりました。

応仁の乱の頃になると、春日社おん祭りの田楽の費用を負担する田楽頭役(でんがくとうやく)を引き受ける興福寺の学侶(がくりょ)がいなかったので、「新儀ではあるが、衆徒(しゅと)の中に勤仕してくれる者がいれば、ありがたい」と申し出ました。これを受けて、下位身分の衆徒(大和武士)のリーダーであった筒井順永(じゅんえい)が頭役を勤仕することになったといいます。

このほか、将軍義満が八回も奈良に来たこと、応仁の乱に摂関家の大部分が奈良に疎開し、奈良には京文化が展開したことなど興味深い記述が多く、中世の大和、奈良を知る格好の入門書ともなっています。